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アリババが競争優位の軸に据える「Holistic Experience」──人を“Well-being”にするデジタル・システムデザインとは

第5回(最終回)

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 デジタルトランスフォーメーションの目的は何か。多くの企業では既存のオペレーションの効率化やコスト削減を暗黙的な目的としているようですが、本来あるべき目的は「デジタルを活用した新たな顧客価値の創造」です。本コラムでは、過去4回に渡ってデジタルを活用することでいかに顧客価値を高めることができるか、またその際の課題にどう向き合うべきかを事例を交えて解説してきました。  本連載コラムの締めくくりとして、企業レイヤからさらに視座を上げて、社会レイヤで見た場合に、人が「より良い存在として幸せに生きられる」ようになるためにデジタルがどのように貢献できるかを論じて行きたいと思います。

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人は「状況」によって善なるものにも悪なるものにもなり得る

 人の本性とは「善」なのか「悪」なのか。いわゆる性善説と性悪説の論争に対して、かのアダム・スミスは『道徳感情論』において、第三の視点として「それは状況による」という考えを提示しました。

 どんなに立派な紳士でも「状況」次第ではよからぬことも行いうるというのは、多くの方にとって納得感のある人間観なのではないかと思います。「悪しきシステムはいつも、善良な人間を打ち負かす」とも言われるように、多くの心理学実験が状況やシステムが人間の行動を規定していることを示しています。

 有名なものですと1963年の「ミルグラム実験(アイヒマンテスト)」が挙げられます。「記憶に関する実験」の参加者を教師役(被験者)と生徒役(実はサクラ)に分けて学習における罰の効果を測定する実験であることを伝えます。それぞれ別室に入り、先生は生徒にインターフォンを通して問題を出し、回答が間違えていると電気ショックを与え、その電圧は生徒が1問間違えるごとに15Vずつ上げるよう指示されています。間違いを重ねるごとに電圧は上がっていき、生徒役が痛みで叫び声を上げたり、失神したりしても、白衣を着た権威のある博士らしき進行役が教師役たちに継続を指示したところ、教師役の実に6割以上が電気ショックで失神状態にある生徒役に対して最大電力の450Vのボタンを押したという実験結果です。

 これは、普通の平凡な市民が一定の状況下に置かれると冷酷で非人道的な行為を行いうることを証明するもので、類似する実験としては「スタンフォード監獄実験」などもあります。悲しいかな人間とはそのようなものなのかもしれません。巧妙に設計された環境と仕組みによって本人の意思はいとも簡単に操作されてしまい得るということです。

 この人間特性を人間が善なる方向に動くように活用することはできないかということで、2014年5月のハーバードビジネスレビューに「スタンフォード監獄実験の逆は実行できるか?」*1と題した記事が掲載されました。曰く、『小さな成功の積み重ねにより、「善良への階段をゆっくりと、1段ずつ上る」仕組みを設計することができるだろうか。そしてそのような実験を社会的なレベルで実行することは可能だろうか』と。成功事例としてカナダの警察が青少年の犯罪防止のために導入した「ポジティブ・チケット」の事例が紹介されています。

 環境/状況や仕組みをうまく創ることで、人間を「善」なるものになるよう促すシステムデザインを社会レベルで実現できたらどうでしょうか。デジタルを活用した”Well-being”を生み出す社会システムデザインの取り組みが今、中国で試行錯誤が進んでいるのです。

*1: http://www.dhbr.net/articles/-/2578

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宮坂 祐(ミヤサカ ユウ)

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